
洗いあがったアルパカ。右上から時計まわりにワカヤ白、ワカヤ茶、スリ白、ワカヤ・グレー。
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フリース(原毛)から物創りするときと、スライバーから物創りをするときでは、多分なにかが違う。
スライバーはいうなれば角材。使いやすい長さ、太さに揃えられ、すでに加工もある程度済んでいる。
あらかじめ創りたいものが決まっていて、そこに素材をあわせていく。
フリースは……うーん、海岸に流れ着いた流木? 洗ったり、塩気を抜いたり、手間をかけながら、それをどうやって使うか考える。
素材があって、その後に用途を考えていく。
どちらが「良い」「悪い」というものではなく、その人がその時やりたいやり方に、あっている素材を選べばいいだけ。
ま、そんな風に思うわけです。
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というわけで「アルパカ骨の髄まで堪能コース そのいち・洗毛」です。どんどんぱふぱふ~♪
なんか、一生懸命言葉で説明しようとしたら、むやみやたらに長くなってしまいました。
わかりにくいところ等ありましたら、どんどん突っ込んでやってくださいましねっ。
さて。わたくし羊毛洗いは慣れているほうだと思います。
羊の場合は5キロ洗うのに(漬け込み時間を除き)だいたい3時間くらいでしょうか。
今回ははじめてのアルパカ原毛ということで、いちいちコマメにメモを取りつつ頑張ってみました。
洗って終わるわけではないので(結局のところ紡いでモノにしてみないとなんともいえないところがありますしねえ)、まだまだ途中経過ではありますが、とりあえず「この洗い方ならフェルト化しなかったよ」ということでご参考になれば…。
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今回は「お試し」ということで、洗ったのはスリ30g、ワカヤの白・茶・グレー各100g。
1.アルパカを予洗いしてみる。
原毛の入った袋からそれぞれ取り出し、まずは洗濯ネットに入れてしまいました。羊と違ってバラけやすく、そのままでは水と一緒に流れていってしまいそうだったので。
バケツいっぱいの40℃のお湯につけこむこと8時間。(本当はこんなに長くなくても良いのです。外出しててやむを得ず長時間放置してただけ)
あれ~え? ネットに入れたからか、あんまりお湯が汚れていない。多少土砂が落ちたかな、くらい。むーう。
ネットのまま洗濯機で30秒ほど脱水。
2.漬け込み
今度は60℃のお湯と、原毛重量の3%のモノゲン(小さなボウルなどにいれ、熱湯でよく溶いておく)を用意。今回はトータルで330g洗うので、モノゲンは10gです。
染色用の大きな鍋をお持ちの方はそちらを使っても良いのですが、私は持っていないので、洗濯機に直接お湯を張り、漬け込みました。洗濯機を染色、洗毛用にだけ使っているのでできる大技ですが、「原毛を洗濯機に直接というのは…」という方はバケツなどをお使いください。
ネットごと漬け込み、急激に温度が下がらないように蓋をします。
翌朝洗濯機の蓋をオープン。このときは漬け込み約12時間。
あれ~? やっぱりあんまりお湯が汚れてないよ?? このあたり羊毛と違う感じですね。羊毛の場合はお湯+モノゲンで脂が溶け出してお湯が白濁しているものなのですが。
洗濯機で30秒くらい脱水。
人の手の脱水と異なり洗濯機の脱水は遠心力で水分を吹っ飛ばしているだけなので、ここでフェルト化の心配はほぼありません。
3.フリ洗い
さて、つぎはフリ洗いです。用意するのはバケツ2つと洗面器(大きなタライが3つ用意できればベストですが、まあそのあたりは臨機応変に。<便利な言葉)。
漬け込みと同様、原毛重量の3%のモノゲンをボウルに入れ、あらかじめ熱湯で溶いておきます。
バケツ2つに40℃のお湯を張ります。これはすすぎ用。
洗面器にも40℃のお湯を張り、熱湯で溶いた3%モノゲンをほんの少し入れます。モノゲンの量は残っている原毛の量を見ながら調節してください。あんまり神経質になる必要はないです。かなり薄いモノゲン湯でも汚れは十分に落ちます。
洗いたい原毛をネットから取り出し、一掴み(慣れないうちは少なめに)取り出して、モノゲン湯の張ってある洗面器で洗います。
羊に比べて脂分がとにかく少ないので、泥や砂、夾雑物(早い話が飼葉の屑)に注意すれば大丈夫。
スリの場合は毛先の泥がけっこうしつっこいので、硬い毛先を指先を使って押し出すように、ほぐすようにして泥や汚れを洗います。あまり手荒にしないように。漬け込みでけっこう汚れも「ゆるんで」いるので、そっと押し出してやれば、ふわりとお湯に溶け出します。毛先以外の汚れは特に何をしなくても、薄いモノゲン湯のなかで広げている間に落ちます。
ワカヤの場合。個体差なのか部位差なのかは不明ですが、柔らかい部分と硬い部分とがあります。硬い部分はやはり毛先の汚れが頑固です。ただ、時折汚れと見せかけて実は毛そのものが違う色ということもあります。洗い方はスリ同様。
柔らかい部分は頑固な汚れというのはあまりないのですが、手荒に扱うとフェルト化しそうでした。なのでお湯の中でやさしく広げて洗います。全体をまんべんなくお湯の中で触って、硬いものに当たったら夾雑物なので除去。
今回は3つかみ、4つかみほど洗うと洗面器のお湯が真っ黒(砂、泥の色)になりました。洗うというより、砂や泥をお湯の中でふり落とす感じ。こまめにお湯を取り替えて、洗っていきます。
汚れが落ちたら毛を絞らずに手のひらですくいあげ、すすぎバケツその1に移します。すすぎの時もあまりいじりすぎないように。湯にざっとくぐらせる感じです。
石鹸分をざっと落としたらすすぎバケツその2へ入れ、仕上げすすぎをします。
私は3つかみ~5つかみくらいを順次洗面器で洗い、すすぎバケツ1にためていきます。洗面器のお湯を取り替えている間にすすぎバケツ1ですすぎ→2で仕上げすすぎをします。
すすぎが終わったらまたネットへ入れて脱水。
※バケツや洗面器から掬いきれなかった毛がかなり流れるので、排水溝にはネットやカバーをかけておいたほうが良いです。
4.乾燥
広げた新聞紙の上でほぐしていきます。
濡れた状態ではフェルト化するからあまり触らないほうが良い、という話も聞きますが、逆にまだ濡れている状態なら力任せにほぐすことが可能です。
(洗うときに急激な温度差さえ起こさなければ、さほどフェルト化はしません。)
私はカードするときにバラバラごみが落ちてくるのがイヤなので、できるだけここで落としてしまいます。
一掴み左手に持ち、少しずつほぐして右手に移しかえていきます。そうするとここで結構細かいゴミが落ちるのです。(これをするかしないかはヒトによります。ドラムカーダーなどお使いであれば、カードんとき落ちますし)
全部ふわふわになるまでほぐしたら完了。あとは乾くのを待ちます。陰干しにはあんまりこだわりません。お日様にあてて問題になったことは今までなかったので。
5.結果
まずは洗ったことによってどれだけ目減りしたか。
スリ白30g→27g
ワカヤ白100g→87g
ワカヤ茶100g→92g
ワカヤグレー100g→90g
ワカヤ白が特に減っていますが、これは洗ってる最中にごわごわのケンプそのもののような、毛長の短い部分があり、紡げないので除去したためです。
全体的にほとんどゴミも脂もなく、落としたのは毛先の土砂だけでした。
羊毛の場合は洗うと当初の85%以下になることもありますから、羊毛に比べると決して歩留まりが悪いというわけでもなさそうです。
で、感想ですが。
ゴミないじゃん。土砂も少ないじゃん。といったところ。
正直意外でした。(前評判がすごかったからねえ(笑))
飼葉屑が少し入っている部分もありましたが、羊と異なり毛があまり絡まらないので撤去は非常に楽です。モノゲン湯の中で広げてやれば大抵の土砂も落ちます。
羊の場合はクリンプス(毛のナミナミ)に棘のある小枝だの虫(!)だのが絡んでえらいことになってしまうのですが、アルパカはそういうことがないので非常に楽でした。
ただ、フリ洗いしてるとすぐにお湯が汚れます。羊は漬け込みで汚れの大部分(脂分)を落とし、フリ洗いで仕上げ、という感じですが、アルパカは漬け込みで汚れをゆるませて、フリ洗いでとことん落とす、という違いがあるようです。
この中で柔らかい順に並べるとワカヤ・グレー→スリ白→ワカヤ白→ワカヤ茶になります。カラーによっての差なのか、個体差なのか、さらに部位差なのかは、なにぶん経験値が少ないのでなんともかんとも。
残りの毛も早く洗ってみないといかんですね。
・ワカヤ茶は、乾燥後も新聞紙に広げただけで細かい毛クズが落ちてきます(……)。うーん、コレは紡いでてもボロボロ毛クズが落ちそうです。ちょっとイヤな予感。羊毛とブレンドしてしっとり感か張りを足してやれば、ニットによさそう。
・ワカヤ・グレーはとにかく柔らかでしなやか。シェトランドにヌメリを足したような高級感があります。ちょっと頑張れば首まわりに持ってこれそう。
・ワカヤ白は茶よりも柔らかでグレーよりも硬い。これも単体よりはブレンドしたほうがいい雰囲気になりそう。白だけに染めたらどうなるのか、試してみたい気分もアリ。
・スリ白は、しなやかという意味ではワカヤ・グレーに近いですが、ちょっと硬い。割と光沢があるので、細めに紡いで透かし編みにしたらどんな風になるかな、と思いました。繊維の重さでヘタるかな?
6.次回への課題
次回洗うときは
・まずネットに入れる前に、原毛を新聞紙の上で振って土砂落としをする。
・予洗いはしない。
を試してみようかと思います。
最初に土砂を落としてたら、洗いがもうちょっと楽に済むような気がするので。
かなり落ちそうなので、ベランダやお庭でやることをオススメですが、集合住宅の場合は難しいかも。アルパカの毛って、なんでか牛臭いんだよねえ……。
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ええと。
じゃあ次があるとしましたら「アルパカ骨の髄まで堪能コース そのに・ブレンド」でしょうか。
あー、だいぶ先の話になりそうですが(笑)。
